2015年06月02日

題未定〈落書き〉

「酋長」
と言ったつもりだったけど、口から出たのはカサカサした空気音だけ。それもあって、言いたいことは一杯あるけどそれ以上は言葉にできなかった。理由は声のことだけじゃないけど。
でも伝わるだろう。酋長は、そういう人だ。
「、、、ちゃんと3つ、入ってたぞ。」
ほら。
全身ひりひりしたり痛かったり熱かったりして、どこがどうなってるかわからない。でもまあ、たぶん明日になればなんとかなっている。そういう自分の身体と精神への自信みたいなものを、この一ヶ月で教えて貰った。叩き込まれた。
その証拠に、呼吸が落ち着いてきた。
「じゃ勝ちだよな」
二人ともボコボコだが。勝ちは勝ちだ。
「ああ」
そう言うと酋長はゆっくり立ち上がる。ふらつきながらも、いつも通りに元から埃だらけのジャージの埃を払い、立ち去る。
その前に。
ちゃんと声が出なくてよかった。身体が動かなくて良かった。そしたら、ずっと思っていた疑問を、この解放感とともにぶつけてしまったから。
酋長が、もしあなたが本当にあなたの言うようなレスラーなら、なんでボロボロなんだよ。あんな不良未満のガキ相手に。
酋長の背中を眺めることしかできなくて、それくらいまだまだ弱くて、本当に良かった。



posted by 淺越岳人 at 00:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月31日

題未定〈落書き〉

それはちょっとした騒ぎでしかないが、そんなちょっとした騒ぎで騒ぐほど、中学生という階級の生活は退屈だ。
その日は新校舎の二階にした。既にこの件は結構な範囲で噂になっているようで、昼休みには三階のおれのクラスでも薄笑い半分、生理的嫌悪半分で「また残ってたって、、、」という会話がなされた。まだ一ヶ月もしないのに、まるで猟奇殺人か都市伝説みたいなテンションで流れる事件の顛末。やはりみんな退屈している。
クラスメートがおれと気付かず、事件の話をする。なんかミステリーみたいだ。 みんな、犯人はここだぜ。
昼休みも掃除も適当に済ませ、午後は体育。その前に。
給食の牛乳が、効いてきた。
朝は二階だったので。グラウンドに向かう前に、おれは一階のトイレに入る。始めは緊張したが、今はもう慣れたもので特に警戒もせず入る。他に誰もいないことを確認、一直線に個室へ。
そして、思い切りよく体操服とパンツを降ろし、一気にぶちまける。
大量の大便が白い便器を汚す。
この快感。クラスの男子はよくオナニーの話をしているけど、おれはアレをそんなに気持いいと思わない。排便の方が絶対気持いい。だからってオナニーをしないわけじゃないけど。
そして。
尻を拭き、パンツを履き、体操服を身につけ、ドアを開け手を洗いトイレから出る。
流さない。
慣れて来たものの、やはりトイレから出る瞬間は背筋がザワザワする。しかし、誰にも見咎められることなくトイレから出て何事もなかったかのように日常に戻るとザワザワは凄まじいほどの多幸感に変わる。
準備運動をしながら、昂奮が抑えられない。
早ければ今日、遅くとも明日、知らずに誰かがあのトイレを使うだろう。そして、また小さな騒ぎが起こる。連続犯なのは、皆薄々感付いている。だけど、誰もおれだと気付いていない。
そう、思っていたのだけど。

posted by 淺越岳人 at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月28日

藪知らずの中〈落書き〉

父さんのこと?
あれは、小学生のときだったと思う。たぶんまだ四年生とか。
父さんの日記を読んだ。
それは、父さんの寝床の横にある小さな文机の傍に、いつも無造作に置いてあった。父さんは夕食後、テレビを見ているあたしたちから離れて、そこでいつも一人で本を読んでいた。思えばノートはいつもそこにあった気がするけど、父さんがそのノートを開いているところを見たことは一度もなかったし、当たり前のことだけど、そもそもあたしは父さんの行動にそんなに興味がなかった。
それはどこにでもある普通の大学ノート、表紙もそのままで、特に日付もない。
あたしはその日の授業で理科のノートが終わっちゃったからノートが必要で、だからなんの意識もしないでノートを開いた。
ノートはびっしりと黒で埋まっていた。父さんの、それなりに整ってはいるけど、小さくて読み難い、いつもの字だった。
本文より更に小さな文字で書いてある数字が日付みたいだったから、それが日記だと解ってあたしはちょっと罪悪感を覚えた。でも覚えただけで、当たり前のことだけど好奇心が勝って、申し訳ないと思いながらも中身を読んでしまった。
あたしは、あれ程醜悪なテキストを読んだことがない。そしてこれからも読むことはないと思う。
不平不満、罵倒。日記はどのページも周りの人間への怨嗟で埋め尽くされていた。会社の上司、同僚。母さんと弟と、そしてあたしへの。
父さんは感情を外に見せない人だった。誰かの悪口を言っている姿を見たことはないし、家族に愚痴を言ったり、そういうこともなかった。
だからあたしがその日記に驚き、「まさかあの父さんがそんな」とショックを受け、それが今回のような、、、そう思った?
ナメないで欲しい。そんな安易な感情移入、気持悪い。
あたしには、あたしの物語がある。そして、あなたにはあなたの物語も。
あたしは思う。全ての人に、それぞれの物語がきっとある。でもそれぞれは全然違う形式ーもしその物語がテキスト化されていたとしたら言語も書式もバラバラーだから、お互いの物語を読むことは決して簡単じゃない。深い思考と想像力、それから努力を必要とする。
『藪の中』って読んだ?、、、芥川よ。今回のことは、あれみたいなこと。
これ以上聞きたいなら、読んでおいて。じゃないとあたしのことは解らないから。

posted by 淺越岳人 at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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